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名古屋地方裁判所 昭和41年(行ウ)9号 判決 1971年12月17日

昭和四一年(行ウ)第九号事件原告

CBC合唱団労働組合

右代表者

広江吉信

同年(行ウ)第一〇号事件原告

CBC管弦楽団労働組合

右代表者

寺西玄之

右原告ら代理人

渡部正雄

外四名

同年(行ウ)第九、一〇号事件被告

愛知県地方労働委員会

右代表者会長

中浜虎一

右指定代理人

水谷省三

外六名

同年(行ウ)第一〇号事件補助参加人

中部日本放送株式会社

右代者者

小表源作

右代理人

本山亨

外二名

主文

一、被告が愛労委昭和四〇年(不)第四号(申立人原告CBC合唱団労働組合、被申立人中部日本放送株式会社)同(不)第五号(申立人原告CBC管弦楽団労働組合、被申立人中部日本放送株式会社)各不当労働行為救済申立事件につ昭和四一年二月一九日付でなした各命令は、いずれもこれを取消す。

二、訴訟費用中補助参加によつて生じた分は補助参加人の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

昭和四一年(行ウ)第九事件原告CBC合唱団労働組合(以下「原告合唱団労組」という。)、同第一〇号事件原告CBC管弦楽団労働組合(以下「原告楽団労組」という。)は「主文第一項と同旨及び訴訟費用は右(行ウ)第九、一〇号事件被告愛知県地方労働委員会、(以下「被告」という。)の負担とする。」との判決を求め、

被告は、本案前の申立として、「本件各訴を却下する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決、本案につき「原らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二、原告らの主張

一、原告合唱団労組は、昭和三九年五月一日にCBC合唱団員により結成され、原告楽団労組は、同年五月一九日にCBC管弦楽団員により結成された。原告らは組合結成以来、使用者である中部日本放送株式会社(昭和四一年(行ウ)第九、一〇号事件被告補助参加人、以下「参加人」又は「会社」という。)に団体交渉を申し入れたが、参加人はこれに応じないので、原告らは、昭和四〇年三月三〇日被告に対し、参加人を相手取り、それぞれ参加人が原告らのなす団体交渉申入れに応じて団体交渉をなすこと、並びに参加人がそれについての非を認める陳謝文の交付、掲示及び公告をなすことを求める不当労働行為救済命令申立(愛労委昭和四〇年(不)第四、五号事件)をした。

二、ところが被告は、原告らの右各申立に対し昭和四一年二月一九日付を以つてそれぞれ「本件救済申立はこれを棄却する」旨の命令(以下「本件命令」という。)をなし、右各命令書は、同月二〇日原告らに送達された。

右命令の理由は別紙その一記載のとおりであり、その要旨は、原告らの労組員と参加人との間には、使用従属関係があるとは認められないから、参加人は労働組合法第七条の使用者にあたらない。従つて不当労働行為の成立する余地はないというにある。

三、しかし、原告らの構成員である合唱団員及び楽団員と参加人との間には使用従属の関係が存することは明らかであり、これら各団員は労働組合法の適用を受ける労働者であることは明白である。

四、以下にその理由を詳論する。

(一)  労働組合の結成

原告合唱団労組は、昭和三九年五月一五日上部組合である日本民間放送労働組合連合会(以下「民放労連」という。)に加入し、昭和四一年七月現在二三名の組合員を有し、原告楽団労組は、昭和三九年八月二〇日民放労連に加入し、昭和四一年七月現在二二名の組合員を有する。

参加人は、昭和三九年三月二五日合唱団員中女子五名に対し再契約拒否をしたが、このことが、一年前から醸成されていた組合結成の気運を具体化する直接の契機となり、組合が結成されたのである。

かくて結成された組合は、合唱団労組については(1)前記五名の解雇の撤回、(2)契約内容の改善、(3)合唱団の存続、(4)賃金労働条件の改善の四点につき参加人に団体交渉を申入れ、楽団労組も同旨の団体交渉を申入れていたのである。

(二)  参加人と各団員との契約関係の実態

1、参加人は、各団員に対し毎月二三日参加人社員(以下「社員」という。)と同様に人事課で給与の支払をなし、昭和四〇年三月までは、本給として毎月一定額が給与明細書に記載されていた。同年四月以降はこれを契約金出演料と訂正して、あたかも賃金でないような表示をするようになつたが、その実質は、従前どおり賃金であることに変りはなかつた。

しかも、参加人は、右賃金から所得税の源泉徴収、健康保険料、失業保険料、共済会々費、共済会借入返済金、社内預金、団体加入生命保険料等を社員と同様差し引いていた。

各団員は、社員と同様参加人の諸施設を利用していたし、社員運動会のような行事には芸能部員として参加していた。社員に配布される会社社内報も各団員に配布されていた。

女子合唱団員の出産時には、九〇日の産前産後の有給休暇が与えられていたし、退職金、有給休暇等の制度もあつた。

このように各団員は社員と全く同様な扱いを受けて来たのであり、専属契約、優先契約、自由契約と推移した各団員と参加人との契約形式は全く形式的なものにすぎず、その労務提供の仕方その他の実態から見ると、右のような契約上の推移にもかかわらず、参加人と各団員との間には使用従属関係が存するのである。

労働法上は契約形態がどのようなものであれ、被用者が有形無形の経済的利益を得て、一定の労働条件のもとに、使用者に対し肉体的精神的労務を提供する関係にあれば、労働法上保護すべき労使関係とみるべきである。

被告の本件命令のように雇傭契約の当事者でなければ労使関係とはみられないということになると、使用者が一方的に雇傭契約の内容を変更さえすれば、労働者を労働諸法規の保護から排除できることになる。

2 なお昭和四〇年度の自由出演契約なる契約については次のとおり主張する。

もともと、原告らの構成員であるCBC合唱団員、楽団員と参加人との出演契約は、当初の契約が一年毎に新規に更新されるというものではなく、期限の定めない契約なのであり、一年毎の新規の契約書の作成調印は、参加人が一方的に決定した契約金、出演料を確認する意味をもつにすぎないのである。

ところが、参加人は昭和四〇年に至り、合唱団員及び楽団員に対し、自由出演契約なる契約書を提示し、その内容の十分な説明もせず、基本的な契約関係は従来と全く変らないことを強調し、契約内容について深く検討の機会を与えないまま、即時に契約締結を承諾することを要求した。そこで右各団員は、やむなく右契約書に署名捺印をした次第である。

かような自由出演契約締結の経緯からすれば、右契約は当初の期限の定めのない出演契約に包含されている基本的な契約関係に何らの法的な変更を加えたものではないと解するのが相当である。

自由出演契約が、もし参加人の出演指定に対し出演するか否かの諾否が右各団員の全く自由に任かされている契約であるとすれば、常時出演指定を拒否することも自由な筈であるが、このような契約によつて参加人の演唱演奏という必要な芸術的労働力を随時確保することができるであろうか。

従つて自由出演契約が、もし従来の出演契約に包含されている基本的な契約関係に法的な変更を加えた、別言すれば、異質な契約であるとすれば、どのような点が変更されたのか(異質になつたのか)理解することができないから、自由出演契約は法的には成立していないとみるべきであり、仮に成立していたとしてもその効力を生ずるに由ない契約という外はない。但し「自由出演契約」と称する契約書に記載された契約金、出演料額については、従来の新規契約書の調印のときと同じく、参加人の一方的に決定した契約金、出演料額を確認する意味をもつことになる。

これを要するに、自由出演契約と題する契約に形式上は変更されたにかかわらず、当初の期限の定めのない出演契約が実態としても法的にも継続していると解するのが相当である。

(三)  原告らが団体交渉を求める必要性と緊急性

原告合唱団労組は昭和三九年五月一日以降、原告楽団労組は同年五月一九日以降それぞれ参加人に対し団体交渉を要求して来たが参加人はこれに応じない。

参加人の右団体交渉拒否は、労働組合に対する強烈な嫌悪感以外の何ものでもない。

原告らの申入れた団体交渉事項は本人のみならず家族の生活がかかつておりその必要性及び緊急性の度合は極めて強い。

(四)  芸能員労働者に対する圧迫の実情

民間放送は昭和二六年CBCラジオが開設され、それ以後急速に各地で開局された。

劇団、楽団、合唱団等の芸能団は民間放送発足とともに、各局共にいつせいに作られ、いずれもその局のイメージアップのために大きな貢献をした。

原告らの構成員で作られた合唱団、管弦楽団も参加人の事業の発展について重要な役割を果した。

ところが、昭和三五年ごろからラジオ、テレビを通じて放送番組をネットワークにより、中央キー局から発信する方式(中央集約化方式)が行なわれるようになり、民放産業規模の機械化、自動化による合理化が急速に進行し、昭和四〇年に至り民放各局共に新入社員の採用を縮減し、下請導入の方針をとるようになつた。

こうした企業の合理化は芸能員労働者の地位、生活に対する重大な脅威となつてくることは自然の成行である。そこで芸能員労働者は地位の安定と一般社員と同一の労働条件を求めて、つぎつぎに労働組合の結成をはかるようになつた。

ところが、このような芸能員労働者の当然の要求、とくに労働組合を結成し、団体交渉を要求したことに対し、民放会社はいつせいに組合破壊の攻撃を激しく加えた。(最初の組合結成は昭和三一年のCBC劇団労働組合であるが、参加人は劇団員全員解雇の措置でこれに対抗し、抗争の結果解雇は撤回されたが、契約形式は改悪された。)

しかし、芸能員労働者の前記のような切実な要求にもとづいて、昭和三三年NHK芸能員労組、同三六年大阪ABCアンサンブル労組、ラジオ中国芸能員労組、同三七年から三八年にかけてTBS楽団労組とKBC劇団労組、同三九年原告ら労組がそれぞれ結成されるに至つた。

このような相つぐ労働組合の結成に対し、民放各社は各種の攻撃を行なつて来た。

本件において、参加人が原告らに対し、団体交渉に応ぜず、組合員との契約を一方的に改悪したのは、原告ら組合の結成と活動を嫌悪し、敵視して行つた組合破壊策である。

五  被告の本案前の主張に対しては、次のとおり争う。労働委員会のなす命令は、それが認容であれ、棄却であれいずれも講学上命令的行政行為といわれるものにあたり、等しく行政処分であることは明らかである。

そして、労働者又は労働組合は、右行政処分である棄却命令の取消を求める法律上の利益を有する。

けだし、労働委員会は、不当労働行為の存することを認定したときは、救済を与えなければならない法律上の義務があり、労働者又は労働組合は、この場合救済を受けるべき法律上の地位を有するわけである。従つて、労働委員会が違法に救済を拒否する処分をしたときは、労働者又は労働組合は、この法律上の地位、利益を害されたことになるからである。

もつとも、昭昭三七年の改正前の労働組合法では第二七条六項、一一項の規定の解釈をめぐつて争いがあつたことは周知のとおりであるが、現行労働組合法は、第二七条一一項において、第七項(使用者が地方労働委員会の命令に対し再審査の申立をしたときは、中央労働委員会の命令に対してのみ取消の訴えを提起できる)の規定は、労働組合又は労働者が行政事件訴訟の定めるところにより提起する取消の訴えについて準用すると明定した。これにより現行法の下では、労働委員会の棄却命令に対し取消訴訟を提起できることは一点の疑も存しないのである。

第三、被告の主張

一、本案前の主張

本訴は行政事件訴訟法第三条所定の抗告訴訟のうちの「処分取消しの訴え」と解されるが、本件命令は申立人の救済申立を棄却したものであつて行政庁の処分とは言えないから、本訴は権利保護の資格に欠けるというべきである。

仮に、本件命令が行政庁の処分にあたるとしても、本件命令の効力を直接原告らが受けるとは言えない。即ち不当労働行為の救済命令は、行政権の発動により使用者に対しこれに従うべき公法上の義務を課し、使用者がこれに従わないときは過料を課することによつて間接強制による実効を期する制度であり、従つて救済命令の効力をうくべき相手方は使用者に限られている。

救済申立人は、申立によつて地方労働委員会の使用者に対する行政処分の発動を促すにすぎないのである。

この理は、棄却命令についても同様であり、棄却命令は使用者に対し行政権の発動をしないということを明らかにしたにとどまり、命令の相手方も使用者であり、申立人ではない。

従つて原告らは、本件命令の取消を求めるにつき法律上の利益を有しない。

二、本案についての主張

(一)  原告ら主張の請求原因事実中第一項の事実は原告らがその主張のとおりの救済命令申立をしたことは認める。その余は知らない。

同第二項の事実は認める。

同第三、四項の主張は争う。

(二)  原告らの主張の要旨は、原告らの構成員である合唱団員及び楽団員と参加人との間に使用従属関係が存在するにかかわらず、これを否定した本件各棄却命令は、その点において事実を誤認し、判断を誤つたものであるというに帰着するが、本件各棄却命令の理由は別紙その一のとおりであり、合唱団員、楽団員共に企業内の組織に組み入れられておらず、使用者の一般的指揮権に服するものとは認め難い。そして原告ら組合の構成員と参加人との間には、出演発注に対し、諾否自由の立場においてこれを受諾したときに始めて出演義務が発生するという程度のゆるやかな関係のあることは認められるが、使用従属関係があるとは認められない。従つて原告ら組合と参加人との間では参加人は労働組合法第七条にいう使用者たりえず、不当労働行為の成立する余地はないから、原告ら組合の本件申立は失当として棄却すべきであるとの判断の下に本件棄却命令をしたのであつて、右各命令はもとより正当である。

第四、参加人の主張

一、本案前の主張

原告ら労組の構成員は、被告主張のとおり労働組合法第三条、労働基準法第九条にいう労働者ではないから、原告らは労働組合たる資格を有していない。

従つて原告らは、参加人に対し団体交渉請求権を際せず、被告のした本件処分の取消を求める法律上の利益を有しない。

仮に右主張が理由ないとしても、後述するとおり原告合唱団労組の構成員と参加人との契約は、すべて昭和四一年三月末日を以つて終了しているのであり、これらの者と参加人との間には団体交渉をなすべき対象となる事項は何ら存しない。

従つて原告合唱団労組は本件処分の取消を求める法律上の利益を欠くというべきである。

二、本案についての主張

別紙その二のとおり

第五、証拠<省略>

理由

一、原告らが昭和四〇年三月三〇日参加人を相手として原告ら主張のとおりの不当労働行為救済命令申立をなし、被告が昭和四一年二月一九日右各申立を棄却する命令をなし、右各命令書は同月二〇日原告らに送達されたこと、右命令の理由は別紙その一のとおりであり、要するに、原告ら労組の構成員と参加人との間には、使用従属関係があるとは認められず、参加人は労組法第七条の使用者にあたらないというにあつたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二、よつて、先ず本訴の適否につき判断する。

不当労働行為救済申立事件についてなす労働委員会の審決はその内容が認容たると、棄却又は却下たるとをとわず、等しく行政機関である労働委員会のなす行政処分であると解すべきである。すなわち、労働委員会は、不当労働行為の存することが認定されるならば、常に必ずなんらかの救済を与えなければならない法律上の義務を負い、不当労働行為が存するのにかかわらず、何んらの救済をもしないことは許されないものと解すべきである。この見地からすれば不当労働行為が存するのに、救済申立を棄却又は却下する労働委員会の審決は行政事件訴訟法第三条に規定する抗告訴訟の対象となる行政処分であることは明らかである。そして現行労組法の下にあつては、労働者又は労働組合は、地方労働委員会の申立棄却又は却下の命令に対し中央労働委員会に再審査の申立をしないときは、直接取消を求める行政訴訟を提起できることは法文上も明白である。

被告は、原告らは、本件命令の取消を求める法律上の利益がない旨主張する。しかし、本件命令が行政処分であることは前述のとおりであり、もし不当労働行為が存在するにかかわらず、その救済申立を棄却又は却下するならば、それは行政庁の違法な行政処分に外ならず、原告らは救済を受けるべき法律上の地位、利益を害されたことになるから、取消を求める法律上の利益を有することは明らかである。

三、参加人は、原告らの構成員は労組法第三条、労基法第九条にいう労働者ではないから、原告らは、労組法第二条にいう労働組合の資格を有せず、従つて団体交渉請求権を有しない旨主張する。

しかし、後述するとおり、原告らの構成員は労組法第三条にいう労働者にあたると解され、従つて、これらの者によつて組織されている原告らは、労組法第二条の労働組合たる資格を有するものと認められるから、参加人の右主張は採用できない。

四、参加人は、原告合唱団労組の構成員と参加人との契約は、すべて昭和四一年三月末日限り終了しているから、原告合唱団労組は、本件命令の取消を求める法律上の利益を有しない旨主張する。

元来、団体交渉権は、労働者の団結体がその対抗する相手方である使用者に対してのみ主張し得る権利であるから当該使用者との間に具体的に労働関係を有する労働者の団結体がこれを有することは言うまでもない。しかし当該使用者に対し団体交渉権の主体たり得るものは、それに止まらず、当該使用者に対しいわゆる対向的労働関係を有する労働者の団結体、別言すれば労働関係の可能性を有する労働者の団結体、もすべてこれに含まれると解するのが相当である。

けだし、労働権保護のためには、現存する労働関係のみならず、労働関係への結びつき、ないしそれからの離脱に対しても、共に団結力による自主的解決を認める必要があるからである。

そして、参加人と原告合唱団労組の構成員との間の契約関係は、使用従属の関係と目すべきことは後述のとおりであり、右契約関係が現に消滅しているか、存続しているかについては、別件(当庁昭和四二年(ワ)第二〇九三号事件)において係争中であることは当裁判所に顕著である。

このように、労使関係の存否につき労使に争いが存するときは、労使の対向関係は末だ確定的に失われていないのであるから、かかる労働者の組織する組合である原告合唱団労組は、当然に団体交渉権の主体たり得るものと解するのが相当である。

してみると、原告合唱団労組は、本件命令の取消を求める法律上の利益を有することは明らかである。

五、よつて、進んで本案につき考察する。

(一)  当裁判所の結論を先に示すと次のとおりである。すなわち原告らの構成員である各団員(以下、これを「演唱契約者」ないし「演奏契約者」という。)と参加人との間の契約関係は、本件命令のなされた昭和四一年二月一九日の時点においては、すべて自由出演契約と称せられる出演契約であり、これは民法の典型契約である雇傭契約と目し得るかどうかは別として、その出演の実態に照らすと、専属出演契約時代に存していた使用従属の関係は自由出演契約においても、なお同質的に存続しており、その限りにおいて右各契約者は労組法第三条にいう労働者と認められる。

従つて、これらの者の組織する労働組合である原告らは、当然に団体交渉権の主体たり得るものと解される。また右各契約者と参加人との間には労使の対向関係が存するものと認められるから、参加人は、労組法第七条二号にいう使用者にあたると解される。

従つて、参加人が、同条同号にいう使用者にあたらないことを理由に原告らの各不当労働行為救済申立を棄却した本件各命令は、失当であるから取消すべきものである。

以下にその理由を詳述する。

(二)  戦後民間放送局の開局に伴い、放送出演を目的とする放送出演契約という新らしい契約型態が発生したことは、顕著な事実である。そして<証拠)によれば、右放送出演契約は、一般に、当初は、専属出演契約であり、ついで回数出演契約、優先出演契約、自由出演契約と順次契約型態が推移していることが認めあれる。かかる放送出演契約に基づいて演唱ないし演奏技能を提供する者が、労組法の保護を受ける労働者であるか否かを決するためには、単に出演契約書の文書のみの考察に止まることなく、これと併せて、契約締結時の実際の経緯、契約当事者の契約内容に対する理解の仕方ないし出演の実態、及び従前の契約関係との対比等諸般の事情を総合して判断することが肝要である。

そして、右のような諸般の事情を総合して契約文書の上からは、民法の典型契約である雇傭契約とは目し得ず、形式的にはいわゆる諾否自由で対等の地位に立つものと考えられるにかかわらず、実質的には、経済的弱者として相手方による労働条件の一方的決定を甘受せざるを得ない状態にあると認められる場合は、使用従属関係にあるものとして労組法の保護を受ける労働者と認めるのが相当である。

以下この見地に立つて考察を進める。

(三)  演唱契約者について

(1)  専属契約時代

(証拠)を総合すると、次の事実が認められる。

(イ) 参加人は、昭和二九年一一月約一二名の者と専属出演契約(以下「専属契約」という。)を結び、これら契約者をCBC合唱団と呼称し、演唱者として出演させた。専属契約書の文書は次のとおりである。

昭和二九年当初においては、「音楽演唱者として会社の発注する放送並びに放送附帯業務に出演することを約諾する。」ことを契約内容とし、その就業規準は、会社の芸能員就業規則によるものとし、別にこれを定めること、右規準に従つてなす就業に対する報酬としては、保障出演料と超過出演料の二種とし、契約期間は一カ年、期間満了一カ月前に何れか一方より解約又は更新の申入をなさないときは、自動的に継続延長するというものであつた。

ついで、昭和三一年に至つて、契約期間については、会社から一カ月前に更新の申入をしないときは、自動的に解約になると改められ、更に昭和三三年には、報酬は、月割契約金と保証出演料(月間の標準就業指定時間単位を一一〇時間と定め、これに対し支払われる出演料)及び超過出演料(月間の右標準指定時間をこえたときに一時間単位で支払われる出演料)の三種とされ、昭和三五年には、「疾病、出産、冠婚、葬祭等特別の事由によらないで会社の出演指定にかかわらず、出演しないときは、当該月の契約金の一部又は全部を支給しないことができる」との条項が附加された。

(ロ)、芸能員就業規則は、昭和二八年一一月一日から劇団員、効果団員、楽団員を対象に既に制定、施行されていたが、演唱契約者を対象とする特別の規則は制定されず、事実上右芸能員就業規則が準用されていた。右規則の内容は大要次のとおりである。

すなわち、発注を受けたときは、速かに受注確認の署名をすること、所定のバッチをつけ、身分証明書を所持すること、受注業務に出演できないときは、予め事由を附して届出ること、傷病により四日以上受注できないときは、診断書を提出すること、就業指定を拒否し又は他所において類似業務に従事したり、又は、会社の許諾なくして他社出演(会社以外の放送並びに放送関係業務に出演することをいう。)することは禁止されていること、就業指定に対しては正当事由なき限り拒否できないこと、その他休日、休業、賞与、慰労金についての規定がある外に、安全保健衛生については、社員の職員就業規則の必要部分が準用されること、業務上の死亡、負傷についても、社員の職員災害補償規定が準用されること、冠婚葬祭については会社厚生共済会の必要部分が準用されること等が規定されていた。

(ハ) これら演唱契約者は、当初採用されるに際しテストを受けたが、採用以来昭和三七年度を除いて毎年契約期間が満了するに際し、毎年技能テストが実施されており、スト不合格を理由に再契約を拒否されたものは、昭和三四年、同三八年に各一名、昭和三九年に五名であつた。右以外の者は、自発的に再契約を希望しないものを除いて、毎年契約が更新されており、専属契約が後記の自由出演契約に切り変つた昭和四〇年三月現在でみると、昭和三二年に当初の契約をしてから八年間も更新を継続されている者もいた。(更新継続年数の内訳は八年一名、七年、六年各二名、五年三名、四年四名、三年三名、二年一名、一年六名である。)

(ニ) 出演並びに報酬額の実態は次のとおりである。すなわち、先ず出演の発注は、原則として一週間前に(場合により二四時間前に)演奏指定伝票によつてなされ、これが合唱団元室の掲示板に掲示されると、各自必ず確認のチェックをする。出演は右指定伝票により指定される時間、場所、指揮者に従つて出演する。

出演報酬は、昭和三九年度で月割契約金は平均九、〇〇〇円ないし一〇、〇〇〇円、出演料は平均一五、〇〇〇円ないし二〇、〇〇〇円であり、出演時間は月平均六〇ないし七〇時間であつた。(契約者の一人である加藤靖弘についてみると、昭和三七年六月の出演時間は一〇三時間、出勤日数二二日、昭和三八年六月の出演時間は五四時間、出勤日数一九日、昭和三九年六月の出演時間六九時間、出勤日数一五日、昭和四〇年三月出演時間七七時間、出勤日数一七日である、但し出演時間は出演のための正規の練習時間を含むものである。)

他社出演は許可ある場合の外は禁止されており、他所出演(個人でアルバイトとして家庭教師や学校の講師をすること)は当初は許可制であり、ついで届出制に変つたが、他社出演については、許可を受けて出演した例は極めて僅少であり、他所出演は、いわゆる副業の域を出でず、それによる収入は、演唱契約者としての報酬を上廻ることは決してなく、むしろその不足分を補う程度のものであつた。

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる的確な証拠は存しない。

なお<証拠>によれば、参加人には専属契約時代に出演内規なる文書が存したことが認められるが、右<証拠>によれば、右文書は参加人芸能部長の個人的なメモ的文書であつて、公表されたものでないことが認められるから、演唱契約者の就業規準が、右文書どおり規律されていたものと認定することは困難である。

従つて右文書の存在は前記認定を左右するに足りる資料とはなし難い。

(ホ) 、以上(イ)ないし(ニ)に認定した事実に、<証拠>により認められる演唱契約者も、社員バッチ(通常の職員とは色は異るがデザインは同じ)名刺、身分証明書(昭和三六年までは当社員であることを証明するとの文言が、翌年から合唱契約者であることを証明するとの文言が記載されていた。)が参加人から交付され健康保険、厚生共済会にも加入していることを総合すれば、専属契約は、仕事の完成を目的とする請負ないしこれに類似する契約とは認め難く、契約金、保証出演料は固定給ないし生活給的要素を保持していると解され、かつ発注に対しては、原則としてこれを拒否することが許されないため、常時待機を余儀なくされるから、事実上就労時間の定めはなくとも、時間的に拘束され、参加人の一般的労務指揮の支配下に常時あるものと解されるから、演唱契約者と参加人との間の契約関係は、雇傭契約関係とみることができ、使用従属関係が存すると解するのが相当である。(昭和三四年七月七日付の労働省解釈例規基収二一四五号も同様な見解であることは、<証拠>により認められる。)

従つて、専属契約時代の演唱契約者は、労組法の保護を受ける労働者であつたことは明らかである。

なお、契約期間は一カ年であつたが、テスト不合格を理由に再契約を拒否された七名の者を除いてその余の契約者が反覆して更新を継続して来たことは、前述したとおりである。このような契約更新の実態に照らすと、契約者が期間満了後も、使用者である参加人において契約を更新して、雇傭を継続するものと期待することは当然の成行であり、かく期待することに合理性が認められるから、使用者の更新拒絶は実質上解雇と同視すべきである。

従つて、使用者が契約の更新を拒絶するについては、解雇と同一法理により、相当な事由の存在を要すると解すべきである。

専属契約時代における演唱契約者の労働関係上の地位は、以上に述べたようなものとして理解さるべきである。

(2)  自由契約時代

(イ) <証拠>によれば、次の事実が認められる。

昭和四〇年四月一日から、専属契約期間の満了する一六名の演唱契約者と参加人との間に別紙その三のとおりの契約(以下「自由契約」という。)が結ばれた。

右契約は、契約書によれば、報酬は契約金(年額、月割払)と出演料の二本立とし、出演によつて生じた著作権、複製権は会社に属するものとし、会社名を使用してする他社出演は会社の許可を受けることを要し、期間は一カ年となつており、芸能員就業規則によるとの文言はなくなつていた。

他に右認定に反する証拠は存しない。

右事実によれば、自由契約の契約文言上からは、他社出演、他所出演は全くの自由となり、参加人の発注に対する諾否も自由となつたものと解される。

然し右契約書の冒頭には、「会社の放送並びにその附帯する事業に出演することを次の条件で契約する。」と記載されており、もし出演に対する発注の諾否が、全くの自由となつたときは、常に他社出演等を理由に拒否するという事態も生ずることになるわけであるが、このような事態の発生は、本契約書の冒頭の右文書から考えて、契約当事者である参加人ないし契約者の予想していないことがらに属することは明らかである。

参加人側も、演唱契約者側も、自由契約における本質的契約関係を、諾否自由な関係とは考えていなかつたことは<証拠>に明らかである。すなわち、<証拠>によれば、参加人芸能部長松枝孝治は、自由契約における出演発注に対する拒否は、法的には契約違反を構成しないが、道義的には非難さるべきことがらであり、拒否はできないと考える。度重なる出演発注に対する拒否は、次年度の再契約締結のとき当然考慮される旨、右審問(編注地方委の審問)の際供述していたことが認められ、<証拠>によれば、演唱契約者のこの点の理解の仕方も全く同じであつて、事実上は発注に対し応諾義務があると考えていたことが認められる。

<証拠判断―略>

このように、契約文言にかかわらず、参加人の発注に対し契約者は事実上これを拒否できないというのであるから、自由契約を文字通り諾否自由な契約関係と解することはできない道理である。<証拠>によれば自由契約になつてから発注を拒否された事例は一年間に三件のみであつたことが認められる。)

(ロ) <証拠>によれば、自由契約が結ばれた経緯は次のとおりであることが認められる。

演唱契約は、昭和三九年五月原告合唱団労組を、結成し、夏季の手当、失業保険適用、掲示板、書記局の設置貸与方、その他の就業条件について、参加人に団体交渉を申入れ、かつ五名の再契約締結拒否の撤回方を要求し、参加人との間に再三話し合いが行なわれたが、参加人は、再契約拒否の撤回要求及び契約条件の改善の二点については組合との話し合いを拒否し、かつ既に契約者の地位を失つている五名(前記昭和三九年において再契約を拒否されたもの)が、もし組合員の中に含まれるなら、そういう組合とは話し合うわけにはいかないとの見解を原告合唱団労組に示した。右以外の組合の申入事項については事実上の話し合いが行なわれた。

かくて、昭和四〇年三月の契約更新期を迎えたが、参加人は、演唱契約者全員に技能テストを行い、全員合格と認め、同年二月二三日その旨を全員に通知し、かつ同月二七日付で新規契約を結びたいので来社を求める旨の通知をした。

組合の切なる要求により、再契約のための面接は、六人一組で行なわれることになり、同年三月三、四日ごろ三グループに分けて面接が行なわれた。

この面接において、始めて前記契約書が各演唱契約者に提示された。右契約書の金額欄には各契約者別にペンで具体的金額が記入されていた。(小出重子、契約金、年額三三六、〇〇〇円、出演料一時間当り一〇〇円、三〇分未満は一時間に切上げ、期間一カ年、三ツ橋明子、契約金三〇六、六〇〇〇円、出演料一時間当り八〇円、押切貞子、契約金三九六、〇〇〇円、出演料一時間当り一二〇円、広江吉信、契約金四〇二、〇〇〇円、出演料一時間当り一〇〇円等であつた)。右年額契約金は、専属契約時代の契約金と保証出演料の合計にほぼ見合う金額であつた。

右のような契約書を提示された演唱契約者は、従来の専属契約といかなる差異があるかと質問したところ、参加人側は、実際の発注指定、出演の仕方、その他の取り扱いは従来と少しも変らない。但し発注がないときには他所、他社の出演は全く自由である。もし他に出演することが定まつたときは、あらかじめ届出れば、その日時には会社は発注指定はしないと説明した。

そこで各演唱契約者は、契約書の文言を面接の場でメモにとり、即時に調印することを避け、契約者全員がその対象を基本として、より一層専属性(雇傭的性格)を強めた契約にするよう参加人に要求していたこともあつて、各演唱契約者は、提示された契約者は、社外出演が自由となり、芸能員就業規則の適用が外されているなど、雇傭契約の色彩が非常に薄くされているとの印象を受けたため、新契約書に署名捺印することをためらつた。しかし、調印を拒否する者に対しては、再契約しないとの参加人の強い意向の前に、やむなく不本意ながら調印することに決め、そのころ全員が右契約書に調印するに至つた。

そして、原告合唱団労組は、昭和四〇年三月二七日付で「参加人が、専属契約を破棄し、一方的に自由契約を押しつけて来たこと、及び契約更新についての団交を拒否されたことに対し、不満であること、並びに今後共契約内容の改善のために斗う」旨の声明書を参加人に提出した。

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足り証拠はない。

原告合唱団労組は、右自由契約は不成立ないし無効であり、演唱契約者と参加人との間には、専属契約がいぜんとして存続している旨主張するけれども、自由契約が結ばれるに至つた経緯は先に認定したとおりであるとしても、最終的には、演唱契約者は自由契約を結ぶことを承諾したのであるから、他に特段の主張立証のない本件では自由契約を不成立ないし無効とすべきいわれは存しないものというべく、この点に関する原告合唱団労組の主張は採用できない。

しかし、自由契約が結ばれるに至つた前記経緯に徴すれば、右契約の文言、契約金の具体的金額などは、すべて参加人が一方的に決定し、演唱契約者の希望は全く考慮されず、契約者は、参加人から再契約の締結を拒否されることをおそれ、やむなく自由契約を結ぶことに合意したものであることは明白である。

(ハ) 自由契約時代の出演の実態

<証拠>によれば、専属契約であつた昭和三九年度における演唱契約者の一カ月平均の出演時間は前記のとおり六〇ないし七〇時間あつたものが、昭和四〇年四月以降においては一カ月平均三、四時間となり、出演時間が急激に減少したこと、これは、演唱契約者が従来レギュラーとして出演していたターミナルサロン及びエプロン大学が昭和四〇年一月ないし三月にかけて放送を打切られたためであること、以上の事実が認められる。

然し右のような出演時間の急激な減少は、全く演唱契約者の予想していなかつた事態であり、これら契約者は、参加人の発注を常時期待していたであろうことは容易に推測できる。これに加えて、先に説示したとおり、参加人の発注に対しては、原則として拒否できないという基本的な契約関係は専属契約時代と同質的に存続していたとすれば、演唱契約者の社外出演ないし他所出演は、当然に制約を受けることになる(会社の発注と競合すれば社外出演ができなくなるし、会社の発注を期待しこれに出演しようとする限りにおいて発注が予想される時間帯における社外出演はできるだけ避けるようになる。)。

従つて、発注の量がいかに減少したとしても、現実に発注された特定の日時、特定の時間以外の時間の全部が常に演唱契約者の自由なる処分に委ねられていると見ることは困難である。

なお、<証拠>によれば、自由契約時代においても、健康保険、厚生年金、厚生共済会に加入が認められており、社員手帳も昭和四〇年末までは交付されていたことが認められる。

(ニ) 以上(イ)ないし(ハ)に認定した諸事実を総合して考察すると、自由契約においても、専属契約における基本的な契約関係は事実上保持され、社外出演の自由はその限りにおいて自ら制約を受けており、また、出演は、本人に限り代替出演は認められず、しかも発注は、参加人が一方的に決定した番組、日時、場所に従つて出演するを要し、契約の締結は専属契約と同じく附従契約であり、契約金は専属契約時代の契約金と保証出演料に見合う額であつて、出来高払賃金制における固定給的要素が保有されている、と考えられる。

してみると、演唱契約者は、参加人が一方的に決定した契約内容に基づいて年間を通じ芸術的労働力の提供者として、参加人が、一方的に指定した日時、場所、番組内容に従い、制作担当者の指揮監督の下に、参加人に芸術的労働力を提供し、その対価として一定の報酬を受けているものであり、その限りにおいて参加人に従属する労働者であると解するのが相当である。

但し自由契約なる出演契約が、専属契約と全く同一であるとは解せられないから、専属契約が雇傭契約であつたように、自由契約も雇傭契約であると解すべきか否かについては疑問の余地の存することは否定できべない。

しかし、労組法の保護を受ける労働者であるかどうかは、必ずしもその者が雇傭契約関係にあるかどうかによつて定まるものではないことは先に述べたとおりである。

(ホ) ところで、<証拠>によれば、参加人は、演唱契約者全員に対し、契約期間の終了する昭和四一年三月末日を以つて契約を終了させ、再契約の締結はしない旨を通告したことが認められ、参加人の右措置に対し演唱契約者は、再契約締結拒否は実質上解雇であるとなし、現に別件で係争中であることは前述したとおりである。

してみると、演唱契約者と参加人との間には、いわゆる労使の対抗関係(労使関係の可能性)が存するものというべきであるから、これらの者の組織する労働組合である原告合唱団労組は、団体交渉権の主体たりうるものであり、参加人は右相手方としての労組法第七条二号にいう使用者にあたると解するのが相当である。

(ヘ) してみると、これと異る見解に立つて、右原告の救済申立を、「参加人は労組法第七条二号の使用者には、あたらない。」との理由で棄却した本件命令(昭和四〇年(不)第四号)は、その余の点につき判断するまでもなく失当であるから取消すべきである。

(四)  演奏契約者について

(1)  <証拠>によれば、次の事実が認められる。

(イ) 参加人は、昭和二六年九月開局に伴い、当初は約一二名の者と専属契約を結び、これら契約者をCBC管弦楽団と呼称し、演奏者として出演させた。専属契約書の文言は、演唱契約者のそれと殆んど同じであつた。当初の契約書には早出手当、長時間手当、時間外手当等の各種手当支給条項、賞与、慰労金に関する支給条項があつたが、昭和二七年度契約から右手当、慰労金の条項は削除された。

契約期間満了の際の取り扱いは、昭和三一年度までは、当事者いずれか一方から一カ月前に解約又は更新の申入をしないときは、自動的に継続延長になる旨規定されていたのが、昭和三八年度から、期間満了一カ月前に更新の申入が当事者いずれか一方からなされないときは、自動的に解約になるとあらためられた。

出演報酬は保証出演料と、超過出演料の二種とされ、月間の標準就業指定時間は一〇〇時間と定められていた。

芸能員就業規則は当初の演奏契約者全員に配布されていたが、右規則の外に施行内規、契約書以外の細則と題する文書も存していた。

これら演奏契約者は、当初採用されるに際してはテストを受けたが、毎年の契約更新期には技能テストは実施されておらず、又再契約の締結を拒否された事例はなく、自発的に再契約を希望しない者を除いて、全員が毎年契約を更新されており、専属契約が後記の優先契約に切り変つた昭和三九年七月現在でみると、昭和二六年の当初の契約から一三年間も更新を継続されている者は六名もいた。(更新継続年数の内訳は一三年六名、一二年二名、一一年一名、一〇年二名、七年三名、六年六名、五年一名、三年二名であつた。)

(ロ) 出演並びに報酬の実態は次のとおりである。

出演の発注及び応諾の仕方は、演唱契約者と同一である。出演報酬は、昭和三九年度で出演料の平均月額は四〇、〇〇〇円ないし五〇、〇〇〇円であつた。

昭和三七年ないし昭和三九年九月までの平均出演時間は、月平均約五〇時間(寺西玄之の例をみると、昭和三七年六月七六時間、出勤日数一六日、昭和三八年六月五六時間、出勤日数一〇日、昭和三九年六月三八時間、出勤日数九日)であつた。

他社出演、他所出演についての取扱い、その状況は演唱契約者の場合と殆んど同じである。

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

なお専属契約時代において参加人には出演内規なる文書が存したこと、しかし右文書は参加人芸能部長松枝孝治の個人的なメモの域を出でず、演奏契約者の就業規準が、右内規どおりに規律されていたとは認められないことは、先に説示したとおりである。

(ハ) 以上(イ)(ロ)に認定した事実に、<証拠>により認められる、演奏契約者も演唱契約者と同様な社員バッチ、名刺、身分証明書を参加人から交付され、健康保険、厚生共済会にも加出していたことを総合して考察すれば、演唱契約者について説示したと同じ理由により演奏契約者と参加人との契約関係は、雇傭契約関係にあるとみることができるから、使用従属関係が存するものと解するのが相当である。

従つて、専属契約時代の演奏契約者は、労組法の保護を受ける労働者であつたことは明らかである。

なお、専属契約において、使用者である参加人のなす更新拒絶は実質上解雇と同視され、更新拒絶については相当な事由の存在を要すると解すべきことは、演唱契約者について説示したところと同一である。

(2)  優先契約及び自由契約時代

(イ) <証拠>によれば、演奏契約者は、昭和三九年七月から昭和四〇年九月までの間に、専属契約から優先契約に、ついで自由契約に切り変えられ、同年一〇月に至つて、全員が自由契約を締結するに至つた。

優先契約は、契約者によれば、報酬は保証出演料と超過出演料の二種とされ、芸能員就業規則の適用はなく「会社の指定する場所で指示する者の指揮に従つて会社の発注する放送並びに放送附帯業務に優先的に出演することを約諾する」旨の条項が存した。自由契約書の文言は、演唱契約者と全く同一である。

以上の事実が認められる。

右事実によれば、自由契約は、契約文言上からは、他所出演、他社出演は全く自由となり、発注に対する諾否も自由となつたこと、優先契約は、発注と他社出演とが同一時間に競合したときは発注に対する出演義務が優先するというもので、その限りにおいて契約文言上諾否の自由が制約を受けていること、以上のような契約関係として理解される。

しかし、<証拠>によれば、参加人も、演奏契約者も、優先ないし自由契約における本質的な契約関係を諾否自由な関係とは考えておらず、発注があれば原則として拒否できないと考えていたことが認められる。この点については演唱契約者について説示したところ同一である。

このように、契約文言にかかわらず、発注に対し契約者は事実上これを拒否できないというのであるから、自由契約を文字通り諾否自由な契約関係と解することはできない道理である。

(ロ) <証拠>によれば、自由契約が締結に至るまでの経緯は、次のとおりであることが認められる。

演奏契約者は、昭和三九年五月一九日全員二四名を以つて楽団労組を結成した。同年七月二四日演奏契約者(確時は専属契約)三名について、契約更新期が到来したので、楽団労組は再契約の締結につき団体交渉を申入れ、かつ契約書案文の事前提示を要求したが、参加人は、契約は個別に交渉すべきものであるとして、右要求を拒否した。そこで同年八月三一日に、楽団労組は、組合員の契約更新その他の労働条件は、団体交渉により結ばれることを要求する文書を参加人に提出した。(これより先同年六月末ごろ松枝芸能部長は、楽団控室において、演奏契約者全員に対し、優先契約につき、芸能員就業規則の適用は外されるが、専属契約の重要な契約部分は実体としては残すから安心するようにとの説明をした。)楽団労組からの前記団体交渉申入れは、参加人から拒否されたが、契約の締結、契約内容の改善に関することがらを除くその余の事項に対する話し合は事実上参加人と楽団労組との間に行なわれていた。

昭和四〇年二月一五日に至つて楽団労組は契約改善についての団体交渉を要求する文書を参加人に提出し、組合案として専属契約を基本とする契約文案を示し、契約日の統一と、右案文どおりに契約内容を変更するよう要求したが、これに対する参加人の態度は従前と同じであつた。

自由契約を締結するに際しても、参加人側から、優先契約についてなされた説明と同旨の説明がなされた外、発注がないときは、他社、他所の出演は自由である。もし他に出演が定まつたときは、あらかじめその旨届出れば、参加人はその日時には発注しないとの説明がなされた。

右優先、自由各契約の調印は契約者毎に個別になされたが、各契約者は、もし調印を拒否すれば、再契約を拒否されることを虞れ、不本意ながら全員調印したが、楽団労組は右契約に不満である旨を参加人に表明していた。

優先、自由両契約を通じ、契約書の金額欄は、あらかじめ参加人において書き込まれていた。(例えば自由契約においては、昭和四〇年八月井上嘉市契約金年額五二二、〇〇〇円、出演料単価一時間一〇〇円、五十井実契約金年額五五八、〇〇〇円、出演料単価同じ、磯部悦雄契約金年額四三二、〇〇〇円、出演料単価同じ、神谷治雄契約金年額四六二、〇〇〇円、出演料単価同じ)これら契約金は演唱契約者と同様従前の専属契約における保証出演料、超過出演料の合計額に見合う額であつた。

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

(ハ) 原告楽団労組は、右自由契約は不成立ないし無効である旨主張するけれども、その理由のないことは、演唱契約者について説示したところと同一である。

しかし、自由契約が結ばれるに至つた前記経緯に徴すれば、右契約の文言、契約金の具体的金額などは、すべて参加人が一方的に決定し、演奏契約者の希望は全く考慮されず、契約者は新規契約の締結を参加人が拒否することを心配し、不本意ながら自由契約を結ぶことに合意したものであることは明白である。

(ニ) <証拠>によれば、次の事実が認められる。

演奏契約者の昭和四〇年度の平均出演時間は一カ月平均九時間となり、専属契約時代に比し急激に出演時間が減少した。(寺西玄之についてみると、昭和三九年七月ないし一二月までの平均出演時間は一カ月約四〇ないし五〇時間、平均出勤日数約一二日であつたが、昭和四〇年一月12.5時間、出勤日数三日、二月16.5時間出勤日数六日、三月37.5時間、出演日数五日、四月九時間、出勤日数三日、五月一五時間、出勤日数二日となつている。)このように出演が減少したのは、昭和四〇年八月現在で出演番組が一週間にレギュラー一本、ドラマの伴奏一、二回という程度であり、専属契約時代に比し出演番組そのものが減少したためである。

なお、優先、自由両契約を通じ、演奏契約者の他社出演は、一、二例を数える程度で極めて僅少であり、相当数の演奏契約者は夜分にキャバレー、ナイトクラブ等にアルバイトとして稼働しているが、その報酬は参加人との契約による報酬の不足分を補う程度のものであつた。

他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

然し、右のような出演時間の急激な減少は、全く演奏契約者の予想していなかつた事態であり、これら契約者は、参加人の発注を常時期待していたであろうことは、容易に推測できる。これに加えて、先に説示したとおり参加人の発注に対しては、原則として拒否できないという基本的な契約関係は、専属契約時代と同質的に存続しているとすれば、演奏契約者の社外ないし他所出演は当然に制約を受けることになるから、発注の量がいかに減少したとしても、現実に発注された特定の日、特定の時間以外の時間の全部が常に演奏契約者の自由なる処分に委ねられていると見ることの困難なことは演唱契約者について説示したところと同一である。

なお、<証拠>によれば、自由契約時代においても、本件命令のなされる以前においては厚生年金、厚生共済会に加入が認められており、社員手帳も交付されていたこと、健康保険、失業保険の適用もなされていたことが認められる。

(ホ) 以上(イ)ないし(ニ)に認定した事実を総合して考察すると演奏契約者も、参加人が一方的に決定した契約内容に基づいて、年間を通じ芸術的労働力の提供者として、参加人が一方的に指定した日時、場所、番組内容に従い、制作担当者の指揮監督の下に、参加人に芸術的労働力を提供し、その対価として一定の報酬を受けているものであり、その限りにおいて参加人に従属する労働者であると解するのが相当であり、その詳細は演奏契約者について説示したところと全く同一である。

してみると、演奏契約者と参加人との間にはいわゆる労使の具体的労働関係が存するというべきであるから、これらの者の組織する労働組合である原告楽団労組は、団体交渉権の主体たりうるものであり、参加人は、右相手方としての労組法第七条二号にいう使用者にあたると解するのが相当であるから、これと異る見解の下に、右原告の救済申立を「参加人は、労組法第七条二号の使用者にあたらない」との理由で棄却した本件命令(昭和四〇年(不)第五号)は、その余の点につき判断するまでもなく失当であるから取消すべきである。

六、以上の次第であるから、被告が昭和四一年二月一九日付でなした本件各命令を取消すこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九四条を適用して主文のとおり判決する。

(松本武 角田清 鶴巻克恕)

別紙その一

当委員会の判断(昭和四〇年(不)第四号)

合唱団員と被申立人会社との間の使用従属関係について当委員会は、上記第13に掲げる証拠を総合して次のとおり判断する。

ア 出演契約の締結について

合唱団員が被申立人会社と平均契約年次四、五年の継続的関係にあり昭和四〇年三月末日かぎり全員自由出演契約になつたことが認められる。この間の契約はいずれも芸能員の特殊性を考慮した一年期限付のものであつて、期限が到来すれば特別に試験を行ない、当事者合意の上更改が行なわれているので一般的意味における単なる更新とは同視できない。

なお、被申立人会社の需要度の変化により、合唱団員に対して業務上の必要性が極めて乏しい状態になつたことが認められる。

このことは、契約形式の如何にかかわらず、以前よりその傾向が見受けられ、現在にいたつている。

契約締結の形式が附従契約的な色彩を有するとしても問題はその契約の内容である。

イ 出演について

合唱団員は、出演発注を拒否することができるか否かについて、自由出演契約の契約書前文では「会社の放送ならびに放送に附帯する業務に出演することを次の条件で約諾する」と規定され、一見、常に出演義務があるかのごとき規定がなされているが、これは同契約第1項から第5項までの条件で契約したことを明らかにしたに止まり、具体的な出演義務を規定したものではない。

合唱団員は、自由に会社の発注に対し諾否をきめることができるのであつて、具体的な出演義務は発注に応諾して始めて生ずる。この意味で合唱団員には厳密な意味での拘束時間というものはない。したがつて被申立人会社は合唱団員を対象に自由な企画をすることができないことが認められる。

ただ、出演発注を実際に断れば次年度契約更改のとき考慮さるべき事由となるであろうということは考えられるが、これは契約存続期間中の問題ではなく、契約中は発注に応じなくとも契約金の減額をされる等の不利益をうけることはない。したがつてこれは契約外の問題と考えるべきである。

被申立人会社は、合唱団員が他所出演等により発注に応じられないことがあらかじめ判つているときには届出を期待し、その期間は発注しない取扱いであるから、合唱団員は常時待機する必要があるとは認められない。

合唱団員が、会社の出演発注に応諾すれば、出演に際して演唱効果の統一上担当プロデューサーおよびその指定する指揮者の指図を受けるが、これは使用者の労働力の一般的指揮権によるものとはその性質を異にしている。

なお、実質上この発注に応じた時間も一か月中にせいぜい八時間位であり、一般に以前からきわめて短いことが認められる。

ウ 出演報酬について

契約金は月額にして最高四四、〇〇〇円、最低二一、〇〇〇円であり、出演料は一時間単位八〇円から一二〇円である。したがつて契約金は、一見、保障固定給のように見えるがこれは芸能界の慣行により契約金の名称を用いながら、著作権、複製権等の謝礼を加味した実質上出演料と認められる。そのようになつているのは、契約上の出演料がこれまた被申立人会社の従来の慣行により少額であり、かつ、合唱団員の出演時間が近時激減の傾向にあり、それのみでは出演報酬に値するものではない点等にかんがみ、急激の変化をきたさないためにとられた過渡的な便宜的措置にすぎないことが認められる。

さらに、契約変遷の推移ならびに合唱団員が会社の出演発注についてその都度諾否を決めうることおよび出演を拒否したり、申立人組合のいう争議行為(ストライキ)をしてもなお契約金の支払額に変更がないこと等をあわせ考えるとこの契約金は賃金とは認め難い。

エ その他

一般職員と合唱団員の勤務態様および身分上の取扱いについて次の表に示すような差異があり、申立人組合のあげている事項は便宜的なものであつて、きわめて特殊な契約形態であることが認められる。

一般職員と合唱団員との差異一覧表

一般職員

合唱団員

1

労働時間

乙第一号証(就業規則)第二二条以下にこれを規定し、一日八時間である。

一定の就業時間なし。出演発注に応諾した時間のみ。

2

賃金

乙第一号証第七三条以下所定。

賃金の定めなく契約金と出演料のみ。

3

退職に関する事項

乙第一号証第六〇条ないし第六二条なお第九二条ないし第九八条にその定めあり。

契約期間一年をもつて終了従つて退職の定めなし。

4

休職に関する事項

乙第一号証第五八条以下にその定めあり。

なし。

5

表彰及び制裁に関する事項

乙第一号証第四章賞罰により定めあり。

契約書第5項に契約違反の場合に解約する定めあるのみ。

6

バッジ

金色バッジ

銀色バッジ

7

身分証明書

職員たることを証明する。

契約者たることを証明する。

8

停年制

乙第一号証第六一条に定めあり。

(五五才)

定めなし。年令を問わず技能の程度による。

9

タイムカード

あり。

なし。

10

年次有給休暇

乙第一号証により定めあり。

適用なし。

11

旅費

出張旅費規定による。

定めなし。

12

失業保険の

適用

あり。

なし。

結論

以上の点を総合判断すれば、合唱団員は企業内の組織に組み入れられておらず、使用者の労働力に対する一般的指揮権に服するものとは認め難い。よつて申立人組合の構成員と被申立人会社との間には、出演発注に対し諾否自由の立場においてこれを受諾したときに始めて出演義務が発生するという程度のゆるやかな関係のあることは認められるが、労働者と使用者との間の使用従属関係があるとは認められない。

したがつて、申立人組合と被申立人会社との間では、被申立人会社は労働組合法第七条にいう使用者たりえず、不当労働行為の成立する余地はない。

よつて、その余の事実を判断するまでもなく、申立人組合の本件申立は失当であり、労働組合法第二七条および労働委員会規則第四三条により主文のとおり命令する。

当委員会の判断(昭和四〇年(不)第五号)

本件申立は不当労働行為の成否の前提として、楽団員と被申立人会社との間の使用従属関係に関する争いがあるので、この点について当委員会は、上記第13に掲げる証拠を総合して、次のとおり判断する。

ア 出演契約の締結について

楽団員は被申立人会社と平均契約年次一〇年の継続的関係にあり、昭和三九年度中に優先出演契約となつたが、その後昭和四〇年三月より審問終結までの間に全員漸次自由出演契約となつたことが認められる。この間の契約はいずれも芸能員の特殊性を考慮した一年期限付のものであつて、期限が到来すれば技能および熟練度を考慮し、当事者合意の上更改が行なわれているので、一般的意味における単なる更新とは同視できない。

なお、被申立人会社の需要度の変化により、近時楽団員に対し業務上の必要性が減少していることが認められる。

このことは契約形式の如何にかかわらず、すでに従前よりその傾向が見受けられ、現在にいたつている。

契約締結の形式が附従契約的な色彩を有するとしても、問題は、その契約の内容である。

イ 出演について

楽団員は出演発注を拒否することができるか否かについて、自由出演契約の契約書前文では、「会社の放送ならびに放送に附帯する業務に出演することを次の条件で約諾する」と規定され、一見、常に出演義務があるかのごとき規定がなされているが、これは同契約第1項から第5項までの条件で契約したこことを明らかにしたに止まり、具体的な出演義務を規定したものではない。

楽団員は自由に会社の発注に対し諾否をきめることができるのであつて、具体的な出演義務は発注に応諾して始めて生ずる。この意味で楽団員には厳密な意味での拘束時間というものはない。したがつて被申立人会社は、楽団員を対象に自由な企画をすることができないことが認められる。ただ、出演発注を実際に断れば次年度の契約更改のとき考慮さるべき事由となるであろうということは考えられるが、これは契約存続期間中の問題ではなく、契約中は発注に応じなくとも契約金の減額をされる等の不利益をうけることはない。したがつてこれは契約外の問題と考えるべきである。

被申立人会社は、楽団員が他所出演等により発注に応じられないことがあらかじめ判つているときには、届出を期待し、その期間は発注しない取扱いであるから、楽団員は常時待機する必要があるとは認められない。

実態上このことは、昭和三九年度の優先出演契約のときからほとんど同様であつたことが認められる。

楽団員が、会社の出演発注に応諾すれば、出演に際して、演奏効果の統一上担当プロデューサーおよびその指定する指揮者の指図を受けるが、これは使用者の労働力の一般的指揮権によるものとはその性質を異にしている。

なお、実態上出演日数、出演時間は昭和三八年頃より激減し、甲第二六号証の一楽団員の例ではあるが、同四〇年一月から五月迄の間に、出演日数は一か月につき、最高は二月中に六日、最低は、五月中に二日、平均すれば四日ということでも明らかなように、一般に拘束日数がきわめて少ないことが認められる。

ウ 出演報酬について

自由出演契約の契約金は月割にして、最高六四、五〇〇円、最低三四、五〇〇円であり、出演料は一時間当り一〇〇円である。したがつて契約金は、一見、保障固定給のようにみえるが、これは、芸能界の慣行により契約金の名称を用いながら、著作権等の謝礼を加味した実質上の出演料と認められる。

そのようになつているのは、契約上の出演料がこれまた被申立人会社の従来の慣行により少額であり、かつ、楽団員の出演時間が近時激減の傾向にあり、それのみでは出演報酬に値するものではない点等にかんがみ、急激の変化をきたさないためにとられた過渡的な便宜的措置にすぎないことが認められる。

さらに、契約変遷の推移ならびに楽団員が会社の出演発注についてその都度諾否を決めうること、および出演発注を拒否したり、申立人組合のいう争議行為(ストライキ)をしても、なお契約金の支払額に変更がないこと等をあわせ考えると、この契約金は、賃金とは認め難い。

エ その他

一般職員と楽団員の勤務態様および身分上の取扱いについて次の表に示すような差異があり、申立人組合のあげている事項は便宜的なものであつて、きわめて特殊な契約形態であることが認められる。

一般職員と楽団員との差異一覧表

一般職員

楽団員

1

労働時間

乙第一号証(就業規則)第二二条以下にこれを規定し、一日八時間である。

一定の就業時間なし。出演発注に応諾した時間のみ。

2

賃金

乙第一号証第七三条以下所定。

賃金の定めなく契約金と出演料のみ。

3

退職に関する事項

乙第一号証第六〇条ないし第六二条。なお第九二条ないし第九八条にその定めあり。

契約期間一年をもつて終了。従つて退職の定めなし。

4

休職に関する事項

乙第一号証第五八条以下にその定めあり。

なし。

5

表彰及び制裁に関する事項

乙第一号証第四章賞罰により定めあり。

契約書第5項に契約違反の場合に解約する定めあるのみ。

6

バッジ

金色バッジ

銀色バッジ

7

身分証明書

職員たることを証明する。

契約者たることを証明する。

8

停年制

乙第一号証第六一条に定めあり。(五五才)

定めなし。年令を問わず技能の程度による。

9

タイム・カード

あり。

なし。

10

年次有給休暇

乙第一号証により定めあり。

適用なし。

11

旅費

出張旅費規定による。

定めなし。

結論

以上の点を総合判断すれば、楽団員は企業内の組織に組み入れられておらず、使用者の労働力に対する一般的指揮権に服するものとは認め難い。よつて申立人組合の構成員と被申立人会社との間には、出演発注に対し諾否自由の立場において、これを受諾したときに始めて出演義務が発生する、という程度のゆるやかな関係のあることは認められるが、労働者と使用者との間の使用従属関係があるとは認められない。

したがつて、申立人組合と被申立人会社との間では、被申立人会社は労働組合法第七条にいう使用者たりえず、不当労働行為の成立する余地はない。

よつて、その余の事実を判断するまでもなく、申立人組合の本件申立は失当であり、労働組合法第二七条および労働委員会規則第四三条により主文のとおり命令する。

別紙その三

契約書  昭和四〇年

私は中部日本放送株式会社(以下会社という)と会社の放送並びに放送に附帯する事業に出演することを次の条件で契約します。

(1) 契約金と出演料は次の通りです。

(イ) 契約金として年額金  円也でその支払いは月割とします。

(ロ) 出演料は一時間あたり単価金

円の割合いで出演時間の算定は三〇分単位とし、三〇分未満は切りあげます。

(2) 出演によつて生じたすべての著作権及び複製権は会社に属します。

(3) 会社名を使用して社外出演をする場合は会社の許可をうけることとします。

(4) この契約の有効期間は昭和 年月日から昭和 年月日までとします。

(5) 契約期間中であつても正当な理由があるときは、どちらからでも一カ月の予告期間をおいてこの契約を解約することができます。但し相手方に契約違反の事実があるときは直ちに解約ができるものとします。

昭和 年月日

住所

氏名

中部日本放送株式会社

代表取締役 小島源作殿

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